暇つぶし?

いやねえ、旦那。なんてことはないんですが、ちょっと小耳にはさんだんですけどね。いやいや、お手を休めていただくほどのことではないんです。ただちょっとお暇つぶしになってもらえればなんて、そんな程度の話ですよ。ええもちろん、お暇なんてないほど忙しい旦那のことですから、ええ、ですからお手を休めていただかなくても、そう少しだけお耳をこちらにかたむけてくれれば結構なんでございますよ。でもお手を休めずにお耳だけというのも案外難しいものですから、かといってそうそうお邪魔ばかりしていてはあたくしの申し訳が立ちませんし、またの機会にというほど改まってお話することのものでもございませんし。なにせほんのくだらない、旬な話でございまして。いえいえ、決して下世話な話なんてものじゃあありませんよ。もっとこうシリアスとユーモアが混じり合ったような、スペクタクルでフィクションな、いえいえ、フィクションなんかではありません。実話でございます。それもとびっきり新鮮な。もっともあたしの話でどこまでその魅力をお伝えできるのかわかったもんでもありませんね、なんせ旦那もご承知の通りあたしは話が苦手でございましょう。口べたなものでなかなかうまくものを伝えるというのが苦手なたちでして。いえいえ、本当ですとも。あたしがこんな小さい鼻たれ小僧のころなんてめったに口が開かないぐらいの物静かなガキだったんで有名だったんですよ。「花屋の倅は石でできてる」ってなことを言われるぐらいそりゃもう静かっていいますか、なんにもしゃべれないぐらいおしとやかな小僧だったんですよ。人前でモノを喋ろうなんてことになると、そりゃあもう茹でタコだか日の丸だかわかんねぇぐらい顔を真っ赤にしてしまうぐらいでしたからねぇ。ええ、本当ですとも。あたしは元来シャイで無口なタチなんですよ。それがどうです、最近店の連中の話では一番口うるさいのはあたしだっていう話じゃありませんか。ひどいもんですよ。そりゃ、昔よりはしゃべれるようにはなりましたよ。無口な小僧も年をとればどうしたって話さなくっちゃぁ、この世知辛い世間を渡ってはいけませんや。ですが口うるさいとはあまりにも言い過ぎってもんじゃありませんか。それで言ってやったんです、てめえら人様を言うに事欠いて口うるせぇ奴たぁどういうことだいって。そしらたやつら恐れ入ったんですね、ひっくり返ってあたしの言葉を拝聴しておりましたよ。そのときの光景ときたらそりゃもう愉快愉快で、旦那にも見てほしかったもんですよ、あたしの堂々とした男っぷりを。それでもなんですね、旦那、いいんですかぃ?こんなにあたしとお喋りしていて。旦那もお暇ですねぇ。羨ましいもんだ。