ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー展
3/7 銀座のメゾンエルメスにてジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー展を聞く。「The Forty-Part Motet 40声のモテット」(2001年制作)という、16世紀の作曲家トマス・タリスの『我、汝の他に望みなし(1583)』の楽曲を、40のパートで個別に録音した聖歌隊の声によるサウンド・インスタレーション。
「彫刻」というフレーズでこの作品はよく語られているよう。説明のテキストにも「~加えて、音というものがいかに彫刻のように空間を物理的に構成しうるか~」「タリスの楽曲がいかに彫刻的に構成されているかということを実際に感じてもらえるように、私はスピーカーを室内に楕円を描くように配置しました。」
確かに、入ってスピーカーが楕円形に並べられた会場を歩いているうち、その観賞者自身がいる場所で聞こえてくる音の違いが、彫刻という多面的なイメージが声によって構成されていることを感じ、彫刻的という言葉はぴったりのような気がしたのだが、どこかある固定の場所に落ち着き、そこで耳を澄まして全体のパートを、さながら自分がその聖歌隊の中に一緒にいるかのように聞くことがより楽しい。すぐ後ろのほうで男性の低いパートが響くかと思えば、右の向こう側で、女性のパートが聞こえてくる。そしてあるパートになると、会場全体が声の波となって鑑賞者を浸してくれる。
そこで自分が今いる場所によって、聞こえる音、聞こえにくい音、というのは、まさしく自分が肉体をもっているからであり、音楽を肉体的に捉えなおした作品とも思えてきた。
通常の音楽鑑賞は、定位置にいて、全体を聞く。しかしここでの音楽は鑑賞者が音楽とより近い存在をもつ―それは楕円形によって音を囲むことによって。その空間は音楽というものが祝祭的な存在であり、人々が集まって輪を囲んで歌い踊る、そうした古代から続く音と声と空間が一体となって作り上げる世界を、西洋音楽の側面からも新たに捉えなおそうとしているような気もしてきた。
ともあれ、行けるときに行っとけっていうぐらい、価値のあるものでした。
あの空間が銀座にある、っていうのもまたおもしろいです。
ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーのHPより
「The Forty-Part Motet 40声のモテット」