注文の多い料理店

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注文の多い料理店

 

小池博史 作・演出

宮沢賢治 原作

http://kikh.com/performance/chumon

 

鑑賞後、よぎった言葉は「人外」。

まさしく人の外の世界を垣間見させてくれたような気分だった。

 

人間と動物、そして食べるという行為について…。

たくさんの隠喩と暗示的なテーマが隠されている内容だった。

 

見ながらずっと、中沢新一さんの本に何度か紹介されていた神話の話が頭をよぎっていました。

それはどうやら後で調べると、北米北西海岸に住むトンプソン・インディアンの語る神話「狩人と山羊」というもののようです。

 

内容は、若く優秀な狩人が、人間の女性の姿をした山羊の女に誘われて山羊の洞穴へ入り、雄山羊となり、発情期の多くの雌山羊とつがった後に人間の世界に戻るというものです。

そして帰り際には以下の様なメッセージを狩人に伝えます。

以下、中沢新一さん著作、カイエ・ソバージュⅤ「対称性人類学」より

 

“「山羊たちを殺したら、彼らも人なのですから、死体を扱うには敬意を払ってください。雌山羊はあなたの妻で、あなたの子供たちを生むのですから、撃ってはなりません。あなたの子孫でしょうから、子山羊を殺してはなりません。義理の兄弟、雄山羊たちだけを撃ちなさい。そして、彼らを殺しても済まないと思うことはありません。なぜなら、彼らは本当に死んだのではなく、家に帰るのですから。肉と毛皮をあなたは取りますが、本当の彼ら自身は家に帰るのです」

こうして若者は山羊の世界に別れを告げて、人間の社会に戻ってきます。彼は山羊との結婚という体験をとおして、高い技量と立派な心構えをそなえた、すばらしい狩人に成長したのでした。”

 

宮沢賢治の注文の多い料理店では、人と動物の関係性が「食べる=食べられる」と双方の境界線を逆転させています。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/43754_17659.html

 

この舞台では、人間と動物の境目が交互に入れ替わり立ち替わって曖昧になっていきます。そして「食べる」という行為が、宮沢賢治の作品のように、世界の非対称性(人x動物)を逆転させる回転軸でありながらも、その繰り返される交換がやがて境界線を消失させていき、「人ー動物」という対称性の世界へ誘う。

 

それは人の「外」の世界へと開かれた場所…。