宗教建築から未来の建築へ
昨日の投稿でこちらの「トーラスとキアスムが一体になった構造」の図をご紹介しました。
僕たちの心は、これらの図形のように
線形空間と非線形空間がワンセットになっている、という認識を基本として
自然と敵対しない建築への道筋における箇所を『建築の大転換』から引用します。
例として紹介されるのがチベットの人たちの建築様式・宗教建築です。
建築というものを中沢さんはこの本の中で以下のように定義しています。
建築というのは大地の上に人間の頭で考えたものを置くもの(P138)
チベットでは大地には大地の女神(サ・タク Sa-dag)がおり、
その上に人間の建築を置くということは、大地を抑圧することになるとあります。
サ・タク(チベットの大地の女神)が棲む大地の空間、つまり自然空間と、人間がその上につくり上げようとする建築の空間は異質なものであり、建物を建てるとはつまり、人間の建築が大地を抑圧する形でつくり上げられる…
なぜ建築は異質であり、大地を抑圧することになるのでしょうか?
それはそれぞれの思考原則が異なるためです。
人間は地面の上に建物をつくります。…しかし、それをつくる思考法の原則は、線型空間になっています。とろこが、大地の下に棲み、蛇体で描かれるサ・タクは、線形構造をしていません。…乱流や渦巻きを描いていくような非線形構造を指定ます。…つまり、ユークリッド型の平面、線形思考でできた建築物を非線形の大地の上に据えると、二つの間に衝突が起きる…
これは、言うなれば上の図形をまさにそのまま地面に埋め込んだ形、
それこそが建築というものだと言いえるかもしれません。
しかしこのままでは大地の空間を抑圧し続けることになりますので、
大地の女神を怒らせることになってしまいます。
…これを防ぐためには建築を行なう前に必ず大地の女神を慰める儀式を行わなければなりません。…贈与を行います。つまり、女神にお供物を捧げることによって、自分と女神との間に第二種交換の絆をつくり上げ、怒りを鎮めようとするのです。(P198-200)
贈与とはキアスム構造によって成立される行為ですので、
つまり大地の女神の空間へ捧げ物をすることによって、
人間の建築原理を大地の女神の空間内に取り組んでもらい、
そして人間の建築と大地の原理が接続する回路を生み出すことが
贈与によって成立されるという事になります。
こうした線形と非線形による思考の運動そのものを示す建築の例として
本では4つほどの建築が紹介されています。
こちらはインドネシアのボロブドゥールの仏塔。
こうした仏塔は「目に見えない潜在空間である自然の空間が
外側に向かって自己展開してくる全体構造を表現した」構造によって作られているといいます。
また以下のコギ族の神殿とフィジーの寺院は、
キアスム構造と同じ、空間にひねりを入れたツイスト構造となっている建築です。
ひねりによって内部空間と外部がつながり、
内部が外部に表れてくる構造だといいます。
そして伊勢神宮の構造もまた、非常に古い思考構造を持っているといいます。
ご神体として地中に埋められている「心御柱(しんのみはしら)」と
御正殿の屋根から突き出している部分(千木)の構造です。
…大地の中の力が上に向かって展開していく力を心御柱として表現しているのです。(P217)
宮のてっぺんの部分は二本の大きな棒が天に向ってそそり立ち、上に向かって開かれている構造になっていて、コギ族の神殿やフィジーの寺院と同じツイスト構造をもっています。つまり伊勢神宮の宮は、内部と外部、自然と人工物を、一つの構造の中に一体化させるために人間の思考がつくりあげた建築物であるという事になります。(P219)
このように大地の非線形空間の存在や力を認識しながら建築を生み出す方法を、
一つの未来への道筋として提示しています。
こうした大地(地面)と建築の方法は、
下から上へという運動、言い換えれば「縦の関係」ともいえるでしょうか。
とすれば、「横の関係」というものも考えられるかもしれません。
思いつくのは周囲の建造物や環境、
そしてその「場所」の歴史や役割…
つまりその建築物の外周にある力の存在でしょうか。
そうなると、集積体の塔ではなく、螺旋状で上へ伸びている形になりますね。
下からの力だけでなく、周囲の力も取り込みながら運動している形…。
あっ、バベルの塔!!
イメージが違うなぁ…(笑)見るとこのバベルの塔のモデルは
イラクのマルウィーヤ・ミナレット(Malwiya Minaret)らしいです。
ミナレットとは、イスラム教において
「モスクに付随し、礼拝時刻の告知(アザーン)を行うのに使われる塔 wikiより」
とのことです。
ちょっと話が飛びましたが、
大地という自然の力を無視せず、そこと対話しながら構築される
運動体のような建築構造というモデルは、
未来の建築を考える上での一つのヒントとして覚えておきたいものです。